記事タイトル:「絵入り日本語作文入門」について 


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お名前: 中村 元    URL
中村 元と申します。日本語教師を生業としています。

さて、専門教育出版の『絵入り日本語作文入門』について述べたいと
思います。

この教材は、全体の印象としては、絵も豊富でなかなか使いやすい
教材だと思います。これが出版される以前は、市販の初級用作文教材と
言えば、あまり上等とは言えない『現代日本語 作文』(亜細亜大学
留学生別科)ぐらいしかなく、授業では自作教材を使わざるを得ません
でした。
ただ、『絵入り日本語作文入門』には、目的の文型を使わせようとする
あまり、日本語として不自然な表現になっている箇所が少なからずある
ように思います。
例として、21.『〜てはいけません/〜てもいいです』(P42) の
問題1の1・2を見てみましょう。

<絵> サロンか待合室。テーブルをはさんで男女がすわっている。
男性が右手で「ここ」と自分たちがいる場所を指し、ふきだしには
煙草の絵が描かれている。女性は笑顔を見せている。

おそらく、ここでは

1.ここで(たばこをすっても)いいですか。
2.はい、ここでたばこを(すってもいいです。)<かっこは中村による>

という答が期待されているのでしょうが、テーブルの上には灰皿がなく、
男性の問いに答える女性もハンドバックを膝の上に置いているところ
からみて、客の一人のように見えます。ただ、女性がにこやかに笑っている
(うなずいている?)ところから判断すると、男性と違い、女性はその
場所に来たのははじめてではなく、そこが喫煙できる場所であることを
知っているようです。

となれば、ここでかわされる会話は、

男:ここで(・ここは)たばこを吸ってもいいんですか/
  ここは、たばこを吸ってもいいことになっているんですか。
女:はい/ええ。

となるでしょうし、もし男性が女性に対して個人的許可を得るために
尋ねたのであれば(絵をそのように解釈するのは苦しいものがあるが)、

男:たばこを吸ってもいいですか/たばこを吸ってもかまいませんか。
女:ええ、どうぞ。/ええ、いいですよ。/ええ、よろしいですよ。/
  ええ、かまいませんよ。

のようになるはずです。
もう一つ例をあげると、3と4の対話は、

3.テストのとき、じしょを(つかってもいいですか。 )
4.いいえ、(つかってはいけません。)

という解答が期待されているのでしょうが、その絵からは

3.テストのとき、じしょを(つかってはいけませんか。)
4.いいえ、(つかってもいいです。)

という答が出てくる可能性も否定できず、これを可とするか否かは
意見の分かれるところでしょう。
『絵入り日本語作文入門』を使う際には、よく考えて使う必要がある
ようです。
[1998/03/29 06:03:12]

お名前: 秋月 康夫    URL
 中村先生、書き込み、ありがとうございます。第1号ですね。

 『絵入り日本語作文入門』の効能は、一言で言えば、パターンプラクティスの
キーを文字や音声で与えるかわりに、絵で与えることができるということではな
いでしょうか。

 「パターンプラクティスの延長なんだ」と思えば、上に挙げられたような不自
然さは、目をつぶってしまえませんか。……と、いうのは決して「だからいいん
だ」ということを言いたいんじゃなくて、「そもそも機械的なパターンプラクテ
ィスの持っている欠陥が、絵を使おうとすることではっきり現れた」と解釈する
と、納得できるという意味なんですけど。

 文型のキーを示すだけだったら、『新にほんごのきそ』の練習Bにときどきあ
るように、「たばこをすう」だったら、「たばこ」の絵だけでもよかったのかも
しれません。もっと、創造的な活動を目指しているのなら、使う文型を状況にあ
わせて柔軟に選択していく予備活動が必要ということでしょうか。
[1998/03/29 08:15:23]

お名前: 中村 元    URL
中村です。
秋月先生、さっそくのResponse、ありがとうございます。

Akizuki sensei wrote:
〉「パターンプラクティスの延長なんだ」と思えば、上に挙げられたような
〉 不自然さは、目をつぶってしまえませんか。

そうですね。おおまけにまけて目をつぶるとしたら、
1の『ここで(    )いいですか。』どまりでしょうか。
「他の場所ではなく、ここでたばこを吸うことを許していただけますか」
「ここでたばこを吸っても迷惑ではありませんか」と相手に尋ねている
のだと善意に解釈して...  (^_^) 
ただ、1と2は対話形式になっているので、1に対する応答としての
2の『はい、ここでたばこを(    )』という与え方がやはり気に
なります。

〉「そもそも機械的なパターンプラクティスの持っている欠陥が、
〉 絵を使おうとすることではっきり現れた」

ということで、教える側が適切な扱いをしないと、そのやりとりが
実際のコミュニケーションの場において行われるのだというあらぬ
誤解を与えかねません。

その点では、例えば「新日本語の基礎」第15課の例文の与え方のほうが
適切であるように思われます。 (120ページ参照)

1.ここに 座っても いいですか。
 … ええ、いいですよ。どうぞ。
2.この 辞書を 借りても いいですか。
 … すみません。今 使って いますから。
3.ここで たばこを 吸っても いいですか。
 … いいえ、いけません。禁煙ですから。

特に2などは、「〜ています」のコミュニケーション上の機能まで
考慮したものとなっています。
  
ところで、この問題をとりあげあたのは、先々週の「某市日本語教室」での
私の体験がもとになっているからです。
その教室では、日本に数年間滞在している方々(連れ合いが日本人である方が
ほとんど)が通ってきているのですが、多少ブロークンながらもそこそこ
話せる方がほとんどなのですね。
で、『〜てもいいですか』と尋ねられた時、どのように答えるかという話に
なったのですが、ほとんどの方がOKの場合には『はい、〜てもいいです』と
答えるというのですね。
しかし、彼等ぐらい日本語ができると、そこそこ流暢であるが故に、
例:「わあ。素敵なお着物ですね。写真を撮ってもいいですか?」
  「はい、写真を撮ってもいいです」
と、これをにこやかに言えばそうでもないのでしょうが、笑顔なしに
やられた暁には... (^_^;;;)
そこで、この場合は「ええ、どうぞ/いいですよ/かまいませんよ」
のように答えるのですよという話をしたのですね。
(「写真を撮ってもいいか」などと聞くのは失礼(・ストーカー)だと
  いう意見も出ましたが ... (^-^;) )

で、その次の回に、『絵入り日本語作文入門』を持っていったわけです。

中村:ここにはこう書いてありますが、この日本語はおかしいですね。
   こういうふうには言いませんね。
  「たばこを吸ってもいいですか」と聞かれたら、何と答えますか。

と楽しい使い方ができたのです。
[1998/03/29 19:01:50]

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