(1999年1月16日から)
この文書は、内容に誤りがあったので、98年3月12日に次の部分が書き直されています。(末尾参照)
>私は韓国人で日本語を勉強 しているChoi(?)Sang(相)chul(哲)といいます。
>質問がありますが いまわたしは日本語でメールを書くことができないので
>すみませんが失礼してここに書かせていただきます。
>今理解できない文章があります。
>つぎのように辞書形 ( 基本形)に分解して説明してください。
>例:「そう言うと思って」→「そう+言う+と
+思う」
>質問です。
>1.ここに置いときます。
>2.その辺は聞かずもがなってとこあるんじゃないかな。
>3.どういうこと。私、ここにきちゃいけなかったの?
>またもうひとつ。後の文章で「大人じゃん」の意味するのはどんなことですか?
>建一に言いあてられて、紘子はすこし照れくさく、
「大人じゃん」と言ってごまかした。
>よろしくおねがいします。 それでは。
崔さんは、『愛していると言ってくれ』という、日本のテレビドラマの脚本を読んでいるようですね。それとも、ビデオで見ているのでしょうか。
おもしろいですか?
最近、韓国のKBSのドラマでも、手話の出てくるものがありましたね。でも、耳の不自由な主人公のまわりの人たちが、主人公の手話がわかるのに、自分では全然手話をしないので、へんだと思いました。わたしは、手話は全然できませんが、手話を習っている友だちがいました。だからわかるのですが、手話を勉強して理解できる人は、手話で話すこともできるはずだと思います。
外国語でも同じです。日本語が聞いてわかる人は、話すことも少しはできなければへんです。もし、全然話せなかったら、勉強の方法を変えてみなければいけませんよね。
さて、質問に答えましょう。
1.ここに置いときます。
これは簡単です。
ここ+に+置く[て形]+おく[ます形]
です。[動詞−て形]+おく は、”あとで何かをするための準備/配慮;あとで悪いことが起こらないようにするための注意/用心”を表します。ここではたぶん、
「あなたはたぶん、ここに置いたものを使うでしょう。だから、取りやすいところに置きますよ」
というような意味でしょう。
文法の規則どおりにすると、「ここに置いておきます」と、なりますね。この、真ん中の「て」と「お」の発音が融合して、短い形の「と」になっています。動詞の[て形]が「で」で終わるときは、「ど」になります。会話ではよく使う形なので、練習してください。
置く → おいておく → おいとく
読む → 読んでおく → よんどく
手紙を書く → 手紙をかいておく → 手紙をかいとく
電話をする → 電話をしておく → 電話をしとく
のようにすればいいです。
2.その辺は聞かずもがなってとこあるんじゃないかな。
これは、ていねいに書き直すと、次のようになります。
その へんは、 きかずもがなと
いう ところが あるのでは ないかな。
いちばんむずかしいのが、「きかずもがな」という部分だと思いますが、これは、慣用句(かんようく)です。無理に分解すれば、 聞く +ず《否定》 +もが《願望》 + な《詠嘆》 ということになって、"聞かないでいたいことだなあ"と解釈できますが、古い使い方ですし、他に応用の効く用法ではないので、
[動詞−「ず」の形]+もがな
で、”したくなるかもしれないけど、 しないほうが
いいかもしれない こと(なんだよね)”という意味だと考えればいいでしょう。これはもともと、文が終わるときの形なのですが、現代の日本語では、これ全体を名詞のように考えて使うことが多いようです。たとえば、
・ サッカーで日本が勝って、韓国人の金さんがどんな気持ちかなんて、
そんなこと、言わずもがなのことだよ。
「言わなくても想像できるのだから、言葉に出して言って不必要な問題を起こさないほうがいいことだ」
・ 新しい電気製品なんて、買わずもがなで、買うとろくなものがない。
「広告を見ると、ほしくなるけれども、実際に買うと後悔することが多いから、買わないほうがいい。」
のように、うしろに「の」や「で」が、ついていますね。
文脈がないと、はっきりわかりませんが、この場合はたぶん、
「そのことや、それに関することについては、”質問したいことがあっても、わざと質問しないで事情を理解してあげたほうがいい”という判断が当たっている部分があると思うけど、あなたもそう思いませんか。」
というような意味だろうと思います。
この文型は、全部の動詞に使えるわけではありません。「勉強せずもがな」とか「働かずもがな」とかの表現は(探したらあるかもしれないけど)聞いたことがありません。よく使うのは、「言わずもがな」と「聞かずもがな」の二つだけだと考えてもいいと思います。だから、こういう表現はそのまま覚えるのがよくて、基本形に分析するのは、せずもがなのことだと言えるでしょう。
[補足1] [動詞−「ず」の形]
「ず」は、否定の「ない」の古い形です。動詞の「ず」の形は「ない形」とだいたい同じですが、
「する」に関しては、「せず」という形になります。
飲む のまない のまず
食べる たべない たべず
する しない せず
くる こない こず
[補足2]
・「その辺」 → そのへん: 1.その近所/その近く
2.それに関すること
・「とこ」 → 「ところ」の短い形。会話でよく使われる。
この場合は、そのあとの助詞「が」も、省略されている。
・「あるんじゃないかな」
→ 「あるのではないかな」。「〜のだ」の会話体「〜んだ」
が使われている。これは「〜んです」の普通体だと考えれば
よい。”あなたの言ったことに答えていますよ”という気持
ちを表したり、”〜だから、〜ほうがいいと思いますよ”と
いう部分を省略して話していることを示している。
後半の、「〜じゃないかな」は、自分の考えを、相手の気
持ちを傷つけないように距離を置きながら言う言い方。「じ
ゃない」の部分で、考えが確実ではないこと、「か」の部分
で、意見を押しつけているのではなくて自分もその考えが正
しいかどうかわからないという態度、「な」の部分で、それ
が個人的な考えだということを示している。「じゃない」に
ついては、下の説明も、参照してほしい。
3.どういうこと。私、ここにきちゃいけなかったの?
これは、単純な省略と、縮約形(短い形)です。ていねい体で書くと、
どういうことですか。私は、ここに 来ては いけなかったのですか。
となります。「どういうこと」の「こと」は、”理由”という意味だと思えばいいでしょう。もっとも、ここでは「どういう理由で”何”なのか」の”何”の部分も省略されていて、はっきりしていませんから、「理由」ということばは使えません。「どういうことですか」、あるいは、「どういうわけですか」と、ききます。
「来てはいけない」の意味はわかると思います。ここでは、「いけなかった」という形になっていますね。これは、「来てはいけないのに来てしまった」という意味です。
最後のところで「〜の?」と、再度、「〜んです」が使われていますが、これは、「〜ということですか」の代わりに使われていると考えていいと思います。
ですから、ここでの意味は、たぶん、
「どうして(そんな態度をとるの)ですか。私がここに来てはいけないのに来たと、あなたは言いたいのですか」
というような意味でしょう。ただし、この人はたぶん、「ここに来てはいけなかった」と相手が答えないだろうと思っているはずです。「そうじゃないでしょう。それでは、どんな理由があるのですか」というのが、本当に言いたいことですね。こういうのを、「反語」と言います。
崔さんがわからなかった理由は、おそらく、「ては」が「ちゃ」に変化していたところでしょう。
[動詞−て形]+おく のときと同じで、これも、「来てはいけない」の、真ん中の「て」と「は」の発音が融合して、短い形の「ちゃ」になっています。動詞の[て形]が「で」で終わるときは、「じゃ」になります。これも会話ではよく使う形なので、練習してください。
来る → きてはいけない → きちゃいけない
読む → 読んではいけない → よんじゃいけない
手紙を書く → 手紙をかいてはいけない → 手紙をかいちゃいけない
電話をする → 電話をしてはいけない → 電話をしちゃいけない
のようにすればいいです。
4.建一に言いあてられて、紘子はすこし照れくさく、
「大人じゃん」と言ってごまかした。
これも、縮約形(短い形)です。「大人じゃん」は、「おとなじゃない」を短くした形です。
ただし、この部分のアクセントは、
と・な・じゃ↓ ほ ん・じ↓
A お↑ な・い に↑ ん・じゃ・な・い
と、なります。
と・な・じゃ・な↓ ほ ん・じ↓ な↓
B お↑ い に↑ ん・じゃ↑ い
と発音してはいけません。Bは、「おとなではありません」という意味です。ここでの意味は、そうではなくて、Aのほうです。意味は、最後を少し上げて言うと「おとなでしょう」、最後を下げて言うと、「おとなですね」とほぼ同じになります。アクセントだけで意味が全然ちがってしまうんですね。気をつけましょう。 それから、Bは、[名詞]と[な形容詞(形容動詞・名詞形容詞)]にしかつきませんが、Aは、[動詞][い形容詞][な形容詞][名詞]の基本形・過去形・否定形・過去否定形、つまり、普通体の全部の形のあとで使うことができます。
お酒、 のむじゃない/ のまないじゃない/ のんだじゃない/ のまなかったじゃない
お酒、 強いじゃない/ 強くないじゃない/ 強かったじゃない/ 強くなかったじゃない
今日は 元気じゃない/元気じゃないじゃない/元気だったじゃない/元気じゃなかったじゃない
あの人、 男じゃない/ 男じゃないじゃない/男だったじゃない / 男じゃなかったじゃない
「〜じゃん」は、Aの、最後を下げて言う言い方が短くなったもので、
と・な・じゃ ん ほ ん・じ↓
A お↑ に↑ ん・じゃ ん
と発音されます。
ですから、ここの部分の意味は、「あなたは大人ですね」ということになります。これも、上と同じように書いてみると、次のようになります。
お酒、 のむじゃん/ のまないじゃん/ のんだじゃん/ のまなかったじゃん
お酒、 強いじゃん/ 強くないじゃん/ 強かったじゃん/ 強くなかったじゃん
今日は 元気じゃん/元気じゃないじゃん/元気だったじゃん/元気じゃなかったじゃん
あの人、 男じゃん/ 男じゃないじゃん/男だったじゃん / 男じゃなかったじゃん
この言い方は、とても乱暴なので、友達の間だけで使うように注意しなければなりません。
これで、わかったでしょうか。日本語は、話す言葉と書く言葉の差が大きいので、勉強がたいへんですね。直接話して教えるのとちがって、このように日本語を日本語で書いて説明すると、文章がどうしてもむずかしくなってしまいます。でも、ここに説明したことは大切なことばかりですから、よく読んで、それでもわからなかったら、また、質問してください。
また、この説明は、他の日本語の先生も見ることができるようにしてあります。私の説明がまちがっていたり、もっといい説明があったら、他の先生が指摘してくださるかもしれません。そのときには、私の方から、もういちど、崔さんに連絡します。
崔さんは、どこに住んでいるのですか。ドラマは、どうして手に入れたのでしょうか。できたら、教えてください。それから、時間があったら、このホームページの他のページも見てください。
>>>2.その辺は聞かずもがなってとこあるんじゃないかな。
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>>> これは、ていねいに書き直すと、次のようになります。
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>>> その へんは、 きかずもがなと
いう ところが あるのでは ないかな。
>>>いちばんむずかしいのが、「きかずもがな」という部分だと思いますが、これは、慣用句(かんようく)です。
>>>無理に分解すれば、 聞く +ず《否定》 +も《拡張》 + がな《詠嘆》 ということになって、"聞かなく
>>>てもいいことなのになあ"と解釈できますが、古い使い方ですし、他に応用の効く用法ではないので、