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No.528  「のです」「のだ」と「んです」「んだ」の ちがい
発言者: きんちょ
発言日: 01/06/10(Sun) 01:03
● 「のです」「のだ」「んです」「んだ」「のである」「の」は、ひとつの表現形式の変異体と みなされることが おおいのですが、もちろん、まったく おなじということは ありません。

● 「のだ」を ひとつの表現形式として みとめている ひとのなかでも、「の」は終助詞として あつかうという たちばも あるようです。たしかに、
「わたしは、山の手の うまれです『の』」などというときの『の』は純粋な終助詞としてみるのが適当だと おもわれるので、「の」を「のだ」の変異体だと みなす たちばにたったとしても、「のだ」の変異体としての「の」と終助詞の「の」の境界をどう かんがえるのかという問題は のこります。
(くわしくは「「のだ」と終助詞「の」の境界をめぐって」野田春美『日本語学』1993-10)

● しかし、「どこへいくんですか?」を うちとけた あいだがらで つかうきには、「どこへいくの?」と いうように、「んですか」に対応する普通体の表現が「の↑」であったり、特に女性や こどもたちの発話に おいては「んです」に対応する普通体の表現が「の」であることが観察されます。このような「の」を「のだ」の変異体とみることは妥当でしょう。

● これらの変異体のなかでの、用法や意味にかかわる つかわれかたの差も観察されています。ここでは、わたしが めをとおした文献・論文に でている「ちがい」をメモすることによって、議論のための資料にしたいと おもいます。


☆ 理由づけの「のだ」

 ・昨日は学校を休みました。頭が痛かったんです。
   ○ いたかったのです
   ○ いたかったのだ
   ○ いたかったんです
   ○ いたかったんだ
   ○ いたかったのである
   ○ いたかったの

 これらに文体差以外の ちがいは みとめられません。


☆ はなしての解釈をあらわす「のだ」

 ・(一人でないている子どもをみて)
  きっと、迷子に なったんだ。

   × なったのです
   ○ なったのだ
   × なったんです
   ○ なったんだ
   △ なったのである
   × なったの

 このような「解釈づけ」は、自分に対して おこなうので、丁寧体では あらわれない(『日本語文法ハンドブック』)。
 
 「なったの」が不適切な理由も、

| 「の」は断定的な口調を避けるために「だ」を省いた形であり、
| 「のです」と同様、相手を意識して選ばれる形である。そのた
| め、独話など相手を意識しない場合には用いられにくい。
|                    (上記 野田 1993)

 「なったのである」は、この例文では 会話的な「きっと」との共起の問題があるものの、小説の“ナレーション”では この用法でも散見される。


★ しかし、上記の問題は、この説明だけでは不十分な ところがある。相手のある会話のなかでの発話であっても、

 ・ A: あの人、来ないね。 
   B: きっと いそがしいんだ。

   × いそがしいのです
   △ いそがしいのだ
   × いそがしいんです
   ○ いそがしいんだ
   × いそがしいのである
   × いそがしいの

というような現象は おきる。これは、

  ・ 「解釈づけ」の用法は かならずしも独話に かぎられない
 ・ 独話でなくても、この用法のときには「だ」をはぶけず、
   「です」も つかえない

ということを意味する。しかし、

 ・ A: あの人、来ませんね。 
   B: きっと いそがしいんだ{よ/ね}。

   ○ いそがしいのです{よ/ね}
   ○ いそがしいのだ{よ/ね}
   ○ いそがしいんです{よ/ね}
   ○ いそがしいんだ{よ/ね}
   × いそがしいのである{よ/ね}
   ○ いそがしいの{よ/ね}

のように、「よ」や「ね」が つくと、この差は なくなるから、この用法が「だ」を要求したり(野田1993 は この説)、「です」を排除したりしているのだと説明するのが妥当であるかは うたがわしい。


★ 「理由づけ」と「解釈づけ」という分類は、益岡(1991)では、「背景説明」と「帰結説明」と定義されている。益岡によれば、

  a.「帰結説明」: 
   ⇒ [事実文]ということからみて[判断文]ということがわかる
      熱がある。風邪をひいたのだ。

  b.「背景説明」1:
   ⇒ [判断文]とかんがえる。[事実文]ということからわかる
      風邪をひいた。熱があるのだ。

  c.「背景説明」2:
   ⇒ [事実文]なのは[事実文]だからだ
      風邪をひきました。雨に濡れたのです。

というように定義できる。上記のような「のだ」の変異体に ことなって はたらく制約は、a.のみが「判断文」に「のだ」が接続していることによるものかもしれない。


☆ 疑問文での「のですか」「のか」「んですか」「んか」「のであるか」「の」

・ 疑問文では「んか」は 共通語の会話としては あらわれない。

・ そのほか、文体の差以外の ちがいは みとめにくい。平叙文での「の」は、女性的だが、疑問文での「の?」は男女差も すくない。(野田1993)

・ 「の」は、上称アクセントでなくても疑問になることがある。しかし、「典型的な疑問文ではない」(野田1993)

・ 複文の従属節にはいるときには、「か」をともなう。(野田1993)
 また、「ん」より「の」が適切になる。

    どこにいったのか、不思議に おもった。

      ○ いったのか
      × いったんか
      × いったの
 
「です」が従属節に いれられないのと おなじように、「か」が必須なのは従属節であることによる制約で、「の」と「のか」の意味の ちがいとは いえないが、「んか」に対する制限は、「の」と「ん」の意味に かかわる はたらきの ちがいに関係している可能性がある。

  
☆ 命令文における「のです」「のだ」「んです」「んだ」「の」

・命令文では「のである」は つかえない。

・「の」を命令文でつかうのは女性的である。(野田1993)
    おとなしくするの。

・否定の命令には、「ないのだ」が つかわれず、「のではない」となる。
しかし、「の」をもちいるときは、「〜ないの」となる。

   さわぐんじゃない / さわがないんだ

   ○さわぐのでは   ×さわがないのです
   ○さわぐんじゃ   ×さわがないのだ
             ×さわがないんです
             ×さわがないんだ
             ○さわがないの

さらに、「さわぐんじゃない『の』」も可能。これは、変異体のなかで、「の」だけがもつ特徴といえる。


☆ このほか、「の」には、終助詞と連続している部分がある点が、ほかの変異体とは ことなる。

  ・ そこで、私にちょっと考えがありますの。

この「ありますの」における「ますの」の意味・機能は、「あるんです」の「んです」と よく にているが、構文としては ことなっている。



● 以上、いくつかの文献・論文に あらわれていた変異体間の相違点について、まとめてみました。

 結論として、「の」と「のです/のだ/んだ/んです」の ちがいとして、意味に かかわる機能の面で ことなる部分が あることが わかりました。また、形態面・機能面で 多少「のか」と「んか」の ちがい、あるいは「んだ」と「の」の ちがいとして分析できることが あるようです。
 しかし、それ以外は、文体差と位相差(とりわけ男女差)として あらわれてくるものをのぞくと、変異体の文体・位相差以外の ちがいをみいだすことは むずかしいと いえそうです。

 もちろん、「のだ」と「んだ」を くらべずに、「のだ」と「んです」を くらべれば、そこには普通体と丁寧体の ちがいが あるのですから、丁寧さの ちがいが あるのは、あたりまえです。また、かきことばのコンテクストでの用例と、はなしことばのコンテクストでの用例では、ことなった特徴が あるかもしれませんが、これも変異体どうしの差なのではなく、文体の ちがいから生じた あらわれかたの ちがいであり、分析上、変異体として とりあつかうことに重大な支障をもたらすようなものではないと おもいます。
 
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