発言者: きんちょ
発言日: 01/06/10(Sun) 01:03
● 「のです」「のだ」「んです」「んだ」「のである」「の」は、ひとつの表現形式の変異体と みなされることが おおいのですが、もちろん、まったく おなじということは ありません。
● 「のだ」を ひとつの表現形式として みとめている ひとのなかでも、「の」は終助詞として あつかうという たちばも あるようです。たしかに、
「わたしは、山の手の うまれです『の』」などというときの『の』は純粋な終助詞としてみるのが適当だと おもわれるので、「の」を「のだ」の変異体だと みなす たちばにたったとしても、「のだ」の変異体としての「の」と終助詞の「の」の境界をどう かんがえるのかという問題は のこります。
(くわしくは「「のだ」と終助詞「の」の境界をめぐって」野田春美『日本語学』1993-10)
● しかし、「どこへいくんですか?」を うちとけた あいだがらで つかうきには、「どこへいくの?」と いうように、「んですか」に対応する普通体の表現が「の↑」であったり、特に女性や こどもたちの発話に おいては「んです」に対応する普通体の表現が「の」であることが観察されます。このような「の」を「のだ」の変異体とみることは妥当でしょう。
● これらの変異体のなかでの、用法や意味にかかわる つかわれかたの差も観察されています。ここでは、わたしが めをとおした文献・論文に でている「ちがい」をメモすることによって、議論のための資料にしたいと おもいます。
☆ 理由づけの「のだ」
・昨日は学校を休みました。頭が痛かったんです。
○ いたかったのです
○ いたかったのだ
○ いたかったんです
○ いたかったんだ
○ いたかったのである
○ いたかったの
これらに文体差以外の ちがいは みとめられません。
☆ はなしての解釈をあらわす「のだ」
・(一人でないている子どもをみて)
きっと、迷子に なったんだ。
× なったのです
○ なったのだ
× なったんです
○ なったんだ
△ なったのである
× なったの
このような「解釈づけ」は、自分に対して おこなうので、丁寧体では あらわれない(『日本語文法ハンドブック』)。
「なったの」が不適切な理由も、
| 「の」は断定的な口調を避けるために「だ」を省いた形であり、
| 「のです」と同様、相手を意識して選ばれる形である。そのた
| め、独話など相手を意識しない場合には用いられにくい。
| (上記 野田 1993)
「なったのである」は、この例文では 会話的な「きっと」との共起の問題があるものの、小説の“ナレーション”では この用法でも散見される。
★ しかし、上記の問題は、この説明だけでは不十分な ところがある。相手のある会話のなかでの発話であっても、
・ A: あの人、来ないね。
B: きっと いそがしいんだ。
× いそがしいのです
△ いそがしいのだ
× いそがしいんです
○ いそがしいんだ
× いそがしいのである
× いそがしいの
というような現象は おきる。これは、
・ 「解釈づけ」の用法は かならずしも独話に かぎられない
・ 独話でなくても、この用法のときには「だ」をはぶけず、
「です」も つかえない
ということを意味する。しかし、
・ A: あの人、来ませんね。
B: きっと いそがしいんだ{よ/ね}。
○ いそがしいのです{よ/ね}
○ いそがしいのだ{よ/ね}
○ いそがしいんです{よ/ね}
○ いそがしいんだ{よ/ね}
× いそがしいのである{よ/ね}
○ いそがしいの{よ/ね}
のように、「よ」や「ね」が つくと、この差は なくなるから、この用法が「だ」を要求したり(野田1993 は この説)、「です」を排除したりしているのだと説明するのが妥当であるかは うたがわしい。
★ 「理由づけ」と「解釈づけ」という分類は、益岡(1991)では、「背景説明」と「帰結説明」と定義されている。益岡によれば、
a.「帰結説明」:
⇒ [事実文]ということからみて[判断文]ということがわかる
熱がある。風邪をひいたのだ。
b.「背景説明」1:
⇒ [判断文]とかんがえる。[事実文]ということからわかる
風邪をひいた。熱があるのだ。
c.「背景説明」2:
⇒ [事実文]なのは[事実文]だからだ
風邪をひきました。雨に濡れたのです。
というように定義できる。上記のような「のだ」の変異体に ことなって はたらく制約は、a.のみが「判断文」に「のだ」が接続していることによるものかもしれない。
☆ 疑問文での「のですか」「のか」「んですか」「んか」「のであるか」「の」
・ 疑問文では「んか」は 共通語の会話としては あらわれない。
・ そのほか、文体の差以外の ちがいは みとめにくい。平叙文での「の」は、女性的だが、疑問文での「の?」は男女差も すくない。(野田1993)
・ 「の」は、上称アクセントでなくても疑問になることがある。しかし、「典型的な疑問文ではない」(野田1993)
・ 複文の従属節にはいるときには、「か」をともなう。(野田1993)
また、「ん」より「の」が適切になる。
どこにいったのか、不思議に おもった。
○ いったのか
× いったんか
× いったの
「です」が従属節に いれられないのと おなじように、「か」が必須なのは従属節であることによる制約で、「の」と「のか」の意味の ちがいとは いえないが、「んか」に対する制限は、「の」と「ん」の意味に かかわる はたらきの ちがいに関係している可能性がある。
☆ 命令文における「のです」「のだ」「んです」「んだ」「の」
・命令文では「のである」は つかえない。
・「の」を命令文でつかうのは女性的である。(野田1993)
おとなしくするの。
・否定の命令には、「ないのだ」が つかわれず、「のではない」となる。
しかし、「の」をもちいるときは、「〜ないの」となる。
さわぐんじゃない / さわがないんだ
○さわぐのでは ×さわがないのです
○さわぐんじゃ ×さわがないのだ
×さわがないんです
×さわがないんだ
○さわがないの
さらに、「さわぐんじゃない『の』」も可能。これは、変異体のなかで、「の」だけがもつ特徴といえる。
☆ このほか、「の」には、終助詞と連続している部分がある点が、ほかの変異体とは ことなる。
・ そこで、私にちょっと考えがありますの。
この「ありますの」における「ますの」の意味・機能は、「あるんです」の「んです」と よく にているが、構文としては ことなっている。
● 以上、いくつかの文献・論文に あらわれていた変異体間の相違点について、まとめてみました。
結論として、「の」と「のです/のだ/んだ/んです」の ちがいとして、意味に かかわる機能の面で ことなる部分が あることが わかりました。また、形態面・機能面で 多少「のか」と「んか」の ちがい、あるいは「んだ」と「の」の ちがいとして分析できることが あるようです。
しかし、それ以外は、文体差と位相差(とりわけ男女差)として あらわれてくるものをのぞくと、変異体の文体・位相差以外の ちがいをみいだすことは むずかしいと いえそうです。
もちろん、「のだ」と「んだ」を くらべずに、「のだ」と「んです」を くらべれば、そこには普通体と丁寧体の ちがいが あるのですから、丁寧さの ちがいが あるのは、あたりまえです。また、かきことばのコンテクストでの用例と、はなしことばのコンテクストでの用例では、ことなった特徴が あるかもしれませんが、これも変異体どうしの差なのではなく、文体の ちがいから生じた あらわれかたの ちがいであり、分析上、変異体として とりあつかうことに重大な支障をもたらすようなものではないと おもいます。
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