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No.747  「結束性」とは 【訂正版】
発言者: きんちょ
発言日: 01/07/29(Sun) 12:01
 この投稿は、Sakananomeさんの投稿No.741「Re^3:『日本語基本文法辞典』にもいろいろと」(
http://nihongo-online.jp/tree02/http://nihongo-online.jp/tree02/treebbs.cgi?kako=1&log=741
)について、わたしが回答した投稿No.744「回答したことを よくよんでからコメントを」(
http://nihongo-online.jp/tree02/http://nihongo-online.jp/tree02/treebbs.cgi?kako=1&log=744
)を補足するものです。


 この投稿では、投稿No.741におけるSakananomeさんの「結束性」という用語に対する認識をといます。

 「結束性(Coherence)」というのは、談話文法における専門用語です。Sakananomeさんは、この ことばをどのように理解しているのでしょうか? 

 No.741「Re^3:『日本語基本文法辞典』にもいろいろと」(
http://nihongo-online.jp/tree02/http://nihongo-online.jp/tree02/treebbs.cgi?kako=1&log=741
)では、Sakananomeさんは、つぎのように かいています。

> 詳しい説明をするとはより多くの情報をやりとりする
> ことで、その結果より多くの共通の情報を(ここらへ
> んでこの辞典のいう「共有する情報」という概念とも
> かかわってくる)話し手と聞き手が共有することにな
> り、親しさが生まれ、柔らかさも生まれ、Oyanagiさ
> んの表現を使えば話し手と聞き手との結束性を高める
> ことにもなるのだと思います。これが「んです」の働
> きだと思います。

 さて、この部分をよむと、Sakananomeさんは、「より多くの情報を話し手と聞き手が共有し、親しさが生まれ、柔らかさも生まれる」ことを「結束性がたかまる」と いっているようです。まるで「結束性」とは、「社内の結束をたかめる」と いうときのように、はなしてと ききての あいだの人間関係をふかめ、両者が「結束」することをさしているようです。
 このような理解は ただしいのでしょうか。


 ここで「結束性」という語は、Oyanagiさんの文章から とったことになっていますが、Oyanagiさんは、この掲示板では「結束性」という用語をつかっていません。ご自分のホームページ(
http://www3.tky.3web.ne.jp/~oyanagi/
)の「文法考察ファイル」での論考「「〜のです」の統一的解釈を試みる」(
http://www3.tky.3web.ne.jp/~oyanagi/studyroom/28.html
)につかっているだけです。そこで、その「勉強部屋」での記述を引用することにします。

 「〜のです」は1)と2)をつなぐ(=結束性)
  役目を果たしていると言える。それが「のです」
  が談話文法の結束性を示すマーカーであるという
  ことである。つまり、設定された課題が<主題>
  となり、(それは文に現れないこともある)その
  課題を解決するために述べられた文が「〜のです」
  ということになる。


  談話を展開するにあたって、上にみたように、
  お互いに提出された情報を確認しあい、足りない
  ものは補いあうが、日本語ではその際に文と文
  (情況と文)が関連しているということを明示す
  ることが必要なのである。
  そうすると、確認するべきものごと/情況や補う
  べきものごと/情況が<主題>として課題設定さ
  れ、その課題の答えが「〜のです」によって述べ
  られることになる。


 ここで、あきらかなことは、Oyanagiさんの いっている「結束性」というのは、
 ・ 情報のやりとりの結果、もたらされるものではない
 ・ 情報のやりとりに まとまりをもたせている性質のことである
 ・ 情報のやりとりの結果、共有された情報によって
  つくられるものではない
 ・ 情報のやりとりをおこなう時点で共有されている情報との
  関連性のことである

と、いうことです。これらのことをSakananomeさんは、よみちがえています。


 「結束性」というのは専門用語です。談話文法で、‘coherence’と‘cohesion’ということが いわれます。その定義は、学者によって微妙にちがっており、訳語も一定していません。あるときには、‘coherence’と‘cohesion’が「結束性」と「結束構造」と訳されたり、あるときには、「一貫性」と「結束性」と訳されたりして、文献によって「結束性」の意味が反対になることが ありますが、これが談話の理論を背景にした ことばであることは たしかです。

 この用語に対する わかりやすい説明は、上智大学外国語学部のサイトにある、「文から文脈・場面へすすめ」(
http://133.12.37.57/fs/fukusen/gengo/gen-03.htm
)が あります。この投稿では、Oyanagiさんの「結束性」を‘coherence’と解釈しましたが、その解釈は、このサイトでの「結束性」(coherence)の解釈に したがったものです。

 さて、この「結束性」について、WEBで検索すると、吉村浩一という ひとの「文章表現のヒューマン・インターフェイス ―“分かりやすい表現”を求めて―」(
http://www.hino.meisei-u.ac.jp/psy/yosimura/bunshou-hyougen.html
)という文書が みつかります。そこには つぎのように あります。

   「飛躍した説明を避ける」ことは,正しい.
  しかし,だからと言って“懇切ていねい”すぎ
  る解説であってはならない.では,どうすれば
  よいのか.その答は,文章表現のもつ“結束性”
  の利用にある.“結束性”とは,文には明示さ
  れない,文と文のあいだの見えない結びつきや
  整合性のことである.文章添削に関する古郡
  (1999)の著書から具体例を示そう.


   文と文は何らかの“装置”(手段)によって
  結びついている.

     太郎は山にいった.水泳をした.

  の文間には,その装置がないために,結びつきが
  損なわれている.

     太郎は山にいった.森林浴をした.

  では,ある装置が文間の有機的な結びつきを保証
  している.これを言い換えれば,この文章の文間
  はその装置によって「結束性」を保っている.

     クリントンは電通大を訪問した.アメリカ
    大統領は講堂で演説した.

  も文間が結束している.文の要素である「アメリ
  カ大統領」は,最初の文の「クリントン」と結び
  ついている.「電通大」,「講堂」,「演説」の
  間にも何らかの“いい関係”がある.(p. 96)


   われわれは,文章理解を行うに当たって,文に
  明示されていないことでも,さまざまな知識や約
  束事を動員して,行間を埋めながら読み進んでい
  る.そのような知識や約束事によって支えられた
  結びつきが“結束性”なのである.

 このような理解が専門用語としての「結束性」の標準的な定義に あたるものでしょう。そして、ここでの「結束性」も、「情報の やりとりの結果、相互理解が ふかまる」といったことではなく、談話の『前提』となっている共有情報を動員しながら、それに『関連づける』作業によって もたらされるものであることが わかると おもいます。

 この意味での「結束性」が、「〜んです」「〜のです」「〜んだ」「〜のだ」などの文末表現に関係しているのです。たとえば、さきほどの例でいえば、

   クリントンが電通大を訪問した.大統領が
   講堂で演説した.

という2つの文は、理解は可能であるけれども、バラバラな感じがします。これを

   クリントンが電通大を訪問した.大統領が
   講堂で演説したのだ.

とすれば、2つの文の つながりは、より明瞭になります。このことを
  「のだ」は「結束性」をマークする
と いうのです。この例文は、ディスコースにすることもできます。

  A: クリントンが電通大を訪問したそうですね.
  B: ええ、大統領が講堂で演説しました.

は、いかにも ぎくしゃくした会話です。これを、

  A: クリントンが電通大を訪問したそうですね.
  B: ええ、大統領が講堂で演説したんです.

とすれば、つながりが明示されて わかりやすくなります。ここでBは、Aの発言によって「クリントンが電通大を訪問した」という事態がAとBとの共有情報になっていることをしります。そして、この「共有情報」との「結束性」を「んです」で表示することによって、Bの発話が それと関連のある情報であることをAに わからせているのです。

 このように ならべてみると、「結束性」のマークということにおいて、「のだ」と「んです」は同列に あつかえることが わかると おもいます。
 以上のような指摘は、なにも、めあたらしいことでは ありません。ちょっと論文を検索すれば、「の(だ)」(「〜んです」をふくむ)と「結束性」との関連をあつかった論考は すぐに みつかるでしょう。たとえば、筑波大学の大学院の俵山雄司という ひとの「テクストの「のだ」文の機能に関する一考察」(
http://www.chiiki.tsukuba.ac.jp/thesis-00/9-tawarayama.html
)は、かきことばでの「のだ」をあつかっています。WEBでは要旨しか わかりませんが、その要旨だけをみても趣旨は あきらかで、「の(だ)」文と「結束性」との関係を研究しています。タイトルしか わかりませんが、台湾の黄瓊慧という かたの論文にも、同様のものが あるようです。 (
http://www.jp.fju.edu.tw/qiong-hui.htm
)。これらと、Oyanagiさんが はなしことばでの「〜んです」を中心に「結束性」との関係を指摘したことと あわせてみれば、「の(だ)」と「ん(です)」に おなじ原理が つらぬかれていることが理解できると おもいます。



 さて、さきほどの、吉村浩一「文章表現のヒューマン・インターフェイス ―“分かりやすい表現”を求めて―」(
http://www.hino.meisei-u.ac.jp/psy/yosimura/bunshou-hyougen.html
)の引用には、つぎのような文章が つづいています。


   上の例を使って,“結束性”について,さらに
  理解を深めたい.書き手は,「クリントン」が
  「アメリカ大統領」であることを,読み手も共有
  している明示する必要のない知識と見なしている.
  2つの文のあいだに「クリントンというのはアメ
  リカ大統領です」という文を加えれば,確かにて
  いねいで飛躍のない表現にはなるが,読み手には
  冗長で煩わしい.文章全体の長さも,これだけで
  5割増しになる.どちらが適切かは明らかである.

   「明らか」と書いたが,もし,小学生を対象に
  書いている場合ならどうであろうか.書き手の抱
  いている結束性と,読み手のそれとはずいぶんず
  れてくる.そこでは,クリントンがアメリカ大統
  領であることを明示しなければならない.結束性
  は,読み手に合わせて変化する.

   小学生を引き合いに出すのは極端かもしれない
  が,われわれが本稿で取り上げているレポートや
  論文の場合にも,書き手と読み手の結束性のずれ
  は深刻である.書き手は,ある知識を踏まえて文
  章を書き進めてゆく.したがって,推敲に際して
  も,その知識を前提として“分かりやすさ”を検
  討する.しかし読み手は,必ずしもその知識を共
  有していない.このことは,論全体の流れについ
  ても,個々の文のつながりについても当てはまる.
  “分かりやすさ”を求める推敲とは,とりもなお
  さず,書き手が読み手の視点に近づく行為でなけ
  ればならない.

 
これをみると、Sakananomeさんが、投稿No.741「Re^3:『日本語基本文法辞典』にもいろいろと」(
http://nihongo-online.jp/tree02/http://nihongo-online.jp/tree02/treebbs.cgi?kako=1&log=741
)で問題にした、以下の部分に対する返答にも なっているのではないでしょうか。

> ここで私が問題にしているのは「共有する情報」
> の意味している事柄です。これも「説明する」と
> 同じようにことばのやり取りをするときには
> かなりの情報を共有しているのです。だからどの
> 情報は共有している、どの情報は共有していない
> などと分けることにはあまり意味がないと思い
> ます。

わたしは、すでに、投稿No.744「回答したことを よくよんでからコメントを」(
http://nihongo-online.jp/tree02/http://nihongo-online.jp/tree02/treebbs.cgi?kako=1&log=744
)で、「〜という」の用法の例をあげて説明しましたが、この うえの引用をみても、表現において、自分が のべようとする ことがらが、あいてとの共有情報になっているのか、いないのかと いうことを、のべる内容ごとに たしかめながら はなしかたをきめていくと いうことは、とても大切なことだと いうことが わかると おもいます。
akizuki.pr.co.kr/
▼関連発言

621:「んです」資料−『日本語基本文法辞典』 きんちょ 01/06/24(Sun)
 ├625:「んです」資料2−『S.F.J.』による文法解説例 きんちょ 01/06/24(Sun)
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 │ └804:なぜそんな失礼なことを! とおりすがり 01/08/12(Sun)
 │  └808:どうでもいい横レスです LEMIRI 01/08/13(Mon)
 │   └809:802.804.808のツリーはココマデm(_ _)m 01/08/13(Mon)
 ├646:「んです」資料3−適否判断の調査研究 きんちょ 01/06/26(Tue)
 │└796:Re: 目的は、結論は、評価は、、 Sakananome 01/08/12(Sun)
 │ └801:Re^2: 目的は、結論は、評価は、、 きんちょ 01/08/12(Sun)
 │  └810:誤字・脱字の訂正 きんちょ 01/08/13(Mon) ←last
 └711:Re:『日本語基本文法辞典』にもいろいろと Sakananome 01/07/18(Wed)
  ├716:Re^2:『日本語基本文法辞典』にもいろいろと きんちょ 01/07/18(Wed)
  │└741:Re^3:『日本語基本文法辞典』にもいろいろと Sakananome 01/07/28(Sat)
  │ └747:「結束性」とは 【訂正版】 きんちょ 01/07/29(Sun)
  │  └794:Re: 「結束性」とは 【訂正版】 Sakananome 01/08/12(Sun)
  │   └800:1点だけ再質問します きんちょ 01/08/12(Sun)
  └722:もう一度かんがえてみてください きんちょ 01/07/19(Thu)
   ├764:再度、要点のみ きんちょ 01/08/02(Thu)
   │└793:Re: 再度、要点のみ Sakananome 01/08/12(Sun)
   │ └798:それでは「まえむき」に質問 きんちょ 01/08/12(Sun)
   └792:Re: もう一度かんがえてみてください Sakananome 01/08/12(Sun)
    └799:コメントありがとうございます きんちょ 01/08/12(Sun)


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